うにょら~堂

関東在住のへなちょこ社会人(バイク乗り、たけのこの里派)が思ったことや行ったところについて書きます。

OVERDRIVE最終作『MUSICUS!』プレイ終了、感想

MUSICUS!

『キラ☆キラ』『DEARDROPS』などの「ロックンロールADV」を生み出してきたOVERDRIVEが同ブランド最終作として2019年に発売した作品です。

 

ブランド前作が違法DLなどの被害を受けるなどもあって開発資金を回収しきれず、今作はクラウドファンディングを使って資金調達が行われました。結果、プロジェクト開始30分強で当初の目標金額をクリアし、最終的には1.3億(目標の300%)超にまで達したことで話題にもなりました。

かくいう僕もプロジェクト開始早々に2万円のコース(ロックンロールコース(銅))でプロジェクト支援を行い、一般販売よりも先にゲーム本編を手にしていました。……が、ADVって一度始めると生活リズムが破綻しかねないこともあって、インストールはしたもののしばらく積んだ状態で満足していました。

5か月近く経ってようやくプレイし、案の定睡眠時間を犠牲にしながらつい先ほど最後まで終わらせたので、思うままに書いていこうと思います。プレイ後の深夜のノリで書くので破綻していたら申し訳ないが改めて練り上げる気は無い。

最初はネタバレなしの感想から

↓プロジェクトページ

クラウドファンディング特設サイト

↓一般発売用サイト

 

感想(ネタバレなし)

あらすじや雰囲気は公式をご覧いただくとして。バンド活動を通して、音楽あるいは「音楽で食っていく」ことそのものに対して向き合っていく話です。もちろんADVなので世間的な成功を勝ち取る結末とそうでない結末、どちらもあります。選択肢はそれほど多くなくシンプル。ほとんどが主人公の行動というよりは思考を選ぶことになります。メインルートは山あり谷ありではあるものの、基本気持ちの良いエンドが待っています。ところが正史ではないと思われるルートでも熱量が凄いため、選択肢があるから用意されたストーリーというよりは、ともすればこういう結末だってあり得るんだという生々しさがそれはもう恐ろしいぐらいのお話でした。

僕個人としては曲がりなりにも創作活動をしたり吹奏楽で舞台に立ったこともあったので、表現者としてもがき苦しむ登場人物の気持ちだとか、ステージのライトを浴びた時に感じる病みつきにような心地よさは多少なりと理解しているつもりでした。主人公の心理状態には丁寧に触れられることもあり、地の文の思考や言動には終始なるほどなーそうだよなーと思いながらプレイしていました。

OVERDRIVE作品をほぼ全てやってきた身としてはどうしても『キラ☆キラ』『DEARDROPS』の2作品を念頭にプレイせざるを得ないのですが、これらを含めて簡単に対比すると

 

『キラ☆キラ』⇒音楽ノータッチだった少年少女が体当たりで音楽を掴みに行く話

DEARDROPS⇒音楽しかないような人々がギラギラと頂点を目指す話

『MUSICUS!』⇒生きる中での音楽への触れ方に迷いながら答えを探す話

 

これまでの作品ではある意味前提だったり触れていなかったりしたところに、生活感を交えて迷いをぶつけていくスタイルです。誤解を恐れずありていに言えば、青春ド直球を味わいたければ上の2作の方が気持ちいいです。『MUSICUS!』はその2作を知らなくても十分楽しめますが、それらのプレイ後に『MUSICUS!』をプレイするとそれらの根本とも言える部分に疑問が投げかけられるので、より不安でハラハラと先が気になる気持ちでプレイできると思います(誉め言葉)。2作の小ネタもところどころ混ざっています。

 

以下ネタバレあり

あらすじは省いているので、完全にプレイ後の方向けです。

ルート別の感想は、実際にプレイして到達した順に書きます。

 

 

 

 

 

 

 

澄ルート

最初がこれでした。あそこで三日月の可能性を信じ切ってやれなかった野郎です。

ほんと怖かった。超科学的なホラーじゃなく人間なだけに生々しさがより怖かった。ものすごく読後感が悪い(誉め言葉)。

ネタバレ無しの方に書いた「ともすればありそうなこういう結末だってあり得る」というのはこれの事。明らかにテキストの筆が乗りに乗っていて、瀬戸口さん(ライター)はこれが書きたくて書いてるんじゃないかと個人的には確信しているレベル。

馨はこの先どう考えても是清の投げかけてきた「音楽なんてクソ」に対して何かしらの答えにたどり着くとは思えないし、とても幸福とはかけ離れた結末。これはADV的には間違いなくBADエンドと呼ばれるものだし便宜上そう呼ぶけれど、これはBADとかではなく音楽がもたらすひとつの結末として用意されているんだろうなと。

馨に限らず音楽に限らず、自分を含め人間や人生にはこういう可能性だとか側面がきっとあるんじゃないか、いや多少なりと絶対にあるんだけど絶対に出てこられちゃまずいからそれなりに抑えているんだという部分を、見透かされているような気分で本当に恐ろしかったです。

それと、澄は客観的に見ればかわいそうとなるけれど、彼女自身主観的には果たして不幸だったのか、いやむしろ幸せだったんじゃないかという思いもあります。明るくない子供時代を経て馨と出会い、馨の才能を信じながら同棲をしていた。かつてよりも生きる意味が見いだせているという意味では彼女の言っていた「今が一番幸せ」は決して嘘ではないんじゃないだろうか。……いやそうは言っても赤ちゃんは下ろせと言われ一晩泣きはらし、しまいには事故に遭うんだから僕だってあれを幸せとは言いたくはないんだけれど。でも真に澄目線で見ると、たぶん僕らが感じている程ひどいBADとは見えていないだろうなと思える。そしてそれだけに恐ろしい。なんなんだろうかこの違和感というか気持ちの行き違いは。

とにかく怖かった。頼むからもっと違う結末を見せてくれと必死に2周目に掛かりました。でも、つい色々と考えてしまうのもこの澄ルートでした。

 

輪ルート

澄ルートの次に来たのは、ある意味エロゲには定番ともいえる展開ですごく安心させられたルート。めぐさん可愛いよね。大事なところになると目つきがシュッとするふわふわしたお姉さん良いよね。

一夜を共にした後、付き合うでもなくそのままエンドを迎えて「お姉さんとのイチャラブな日々は無いんですか!!!!?????」と半ギレしたのですが、これに関しては馨自身が三日月ルートでも言っている通り「バンド内にそういう(交際)関係は持ち込まない」がどの結末でも徹底されているんですよね。自分たちはそうやってうまく行くことはないだろうからと。それに気づいてからは納得しています。見てみたい気持ちは確かにあるけれど。とてもあるけれど。

キャラ的に輪さんはとても好きなのですが、こういう感想を書くにあたってはこのルートはあまり書くことが無いです。

 

弥子ルート

音楽を割り切ってDr.Flowerを結成せずに進むルート。今作の選択肢にはたぶん正解なんて元々無いし、これだってまっとうな音楽との生き方です。

それにしても弥子ルートのNIGHT SCHOOLERSでさえ「バンド内に交際関係は持ち込まない」ルールが適用されている徹底っぷり。文化祭前夜に告白はしていたけれど、後の文で文化祭の後からつき合いはじめたって書いてあったもんね。

キャラ的には佐藤さんも好きです。良くないですか佐藤さん。たぶん多くの人がそう思ってる。でも全体を見るにわざわざルートを作る必要は無い。それもまた分かってる。

それにしてもいいよな校歌アレンジ。キラ☆キラの校歌アレンジで校歌という概念そのものを好きになったくらいだ。

 

三日月ルート

満を持して正史。三日月のポンコツ具合には序盤から引き込まれていたので楽しかった……けど、アシッドアタックのくだりは「マジでこの物語両手放しで喜ばせる気ねえな」と思いました。

あれっ、好きだし可愛かったし随所でニヤニヤしながら進めていた割には書くことが無いぞ……?

EDムービーは震えました。

 

まとめ

こうして全ルートを終えて気付いたのは「幸福な家庭と幸福な音楽人生の両方を手に入れることは出来ていない」ということ。澄、弥子、輪、三日月、全てのルートで共通していたのが「バンド内に交際関係を持ち込まない」というルールでした。これこそがテーマだと言う気は毛頭ありませんが、恋愛ADVにおいてこれだけネックになりそうなルール――というかイチャラブな日常が制約されるので確実にネックな制限――を徹頭徹尾敷くのだから、何かしらの意図はあると思っています。はたしてこれはある種の皮肉なのか何なのか。でも、それがロックに命を捧げるということなのかもしれませんし、多数派が持つ何かを手に入れないからといって、外野から「それは幸福ではない」と決めつけるのもいかがなものか。

前半にも書いた通り、ロックンロールADVの系譜として根本に疑問をぶつけていた今作。バンドの成功として王道であろう三日月ルートさえ事件や恋愛という面では万々歳なフルスロットルのハッピーエンドで終わらせないのは、やっぱり何が正解と言い切りたくないからなのかも知れません。

そこで思い出したのは、クラウドファンディングの進捗報告か生放送かTwitterか、プロジェクトオーナーのbamboo社長がどこかで何度か言っていた「作品全体のテーマ曲(OP曲)は無い。各ルートのエンディング曲がそれぞれのテーマだ」という内容です。ゲーム完成前にそれを見聞きした時、ゲームの顔ともなり得るOPを用意しないなんてと正直思っていました。実際、『キラ☆キラ』のプレイ中に流れたOPでは一気に作品に引き込まれたし、『DEARDROPS』の発売前に見たOPムービーでは「滅茶苦茶カッコいいな絶対買おう」と思った身だったので。でもプレイ後の今となっては、ゲームの顔たるOP(テーマ曲)を無くしてまで貫きたい意図があったんだろうと感じていますし、納得しています。クラウドファンディングで開発費は既に確保しており商業的なプロモーションが不可欠では無いからこそ成しえた方針かも知れません。

ルートによってヒロイン以外も全く別の様相になる人間関係。主人公バンドDr.Flowerの顔ぶれさえも、ルートによって異なります。公式サイトのイメージイラストが、三日月ルートのDr.Flowerではなく、各ルートで主人公が所属したバンドメンバーをみんなごちゃまぜにしているのは、「テーマ曲は無い」としているのとたぶん同じ理由なのでしょう。

 

最後にOVERDRIVEへの個人的な思い

僕は受験勉強の大事な時期に『キラ☆キラ』をプレイし、もちろんそれだけが理由ではないけれど、一年をふいにした時期があります。でも、足踏みはしたけれど結果的にそれは良い方向に転がったし、ふいにしたとは言ったもののその時期を文字通り無駄にしたと思ったことは当時から今まで一度もありませんでした。むしろ早いうちにやっておいて良かったと思うくらい。最終作となるのは寂しいけれど、これまで大事なものを沢山貰ってきたと勝手に感じています。ありがとうオバイブ。

あと僕、bambooさんと誕生日が一緒なのがちょっとした自慢です。